中国人が上海の日系企業で働くメリットはなんだろうか?欧米系企業と異なり、一度働き始めると解雇の心配が比較的少なく、安定して働けることを挙げる人も多い。もう一つのメリットとして、名前が通った企業でも、責任あるポジションで働けるケースが多い。これから中国市場において成長を目指す企業で、責任あるポジションでキャリアを積み重ねたい人にはもってこいである。今回ご紹介する夏琼さん(以下、夏さん)は、未経験から日本の有名企業で販売促進のポジションにつき、キャリアを積み重ねているその一人である。彼女の場合、さらにあこがれであった会社へ転職できたとてもハッピーなケースでもある。

日本の漫画の中で見た"ミスタードーナツ"。あこがれの会社で働くことに

夏さんとミスタードーナツの出会いは、実はミスタードーナツが上海進出する前、97年のことだった。『子供の頃から日本の漫画が大好きなんです。少女漫画の中で、主人公がミスタードーナツを食べるシーンがあったのですが、それがすごく幸せそうで。それからいつか食べてみたい、と思ってました』

2000年にミスタードーナツは上海に初上陸。その噂を聞きつけて一号店へ。漫画の中でしか見たことがなかったが、期待通りの味で一口食べてから病み付きになったそうだ。結婚後、常州に生活の拠点を移す。上海から常州に戻る際、上海駅近くのミスタードーナツでお土産として必ず買い求めて帰っていたそうだ。その後また上海へ戻って来たことがきっかけで転職。テンプスタッフ上海から紹介された二つの求人の一つでこれだと思ったそうだ。とんとん拍子に内定が決まり、今年1月からミスタードーナツの社員として企画部で働いている。

入社してから知ったそうだが、上司の中村部長は夏さんが大好きなポンデリングの開発者。『まさか上海にいるとは思いませんでした。夫に"私の隣にポンデリングの開発者がいるよ"って言ったら"創ってくれて、ありがとうございます"だって』そういう夏さんのご主人も大のミスドファンだという。

未経験から販売促進のポジション。自分の大好きなミスドの味を、中国で広める仕事です。

夏さんは、大学で日本語を専攻。卒業後、日本語を活かして働きたいと思い、日系メーカーで営業アシスタント、営業として働く。その後、ご主人の仕事の都合もあり常州で仕事を探す。中国ローカルの流通業で日本人責任者の通訳兼カスタマーサービス担当というポジションを得る。現在のミスタードーナツでのポジションは"販売促進"。彼女が採用された理由はどこにあるのか。上司の中村部長に聞いてみた。『最終的な判断を下したのは総経理ですが、私は彼女の日本語能力を特に評価しました。彼女のほかに面接した方の中に飛びぬけて優秀な方もいましたが、このミスタードーナツの社内の雰囲気に合うかどうか、それも重要な採用のポイントでした。』

現在、彼女が所属する企画部は4名。管理者として中村部長が統括し、その下に販売促進を担当する夏さん、そのほか広告デザイン、商品企画と一人ずつ中国人スタッフがおり、一人ずつが大きな責任を担う。ミスタードーナツの販売促進、つまり今後の中国での成功を占うとも言える中核メンバーなのだ。なぜ未経験の彼女を?中村部長の答えはこうだ。
『ミスタードーナツが上海に登場したのは2000年。今年で10周年を迎えます。一号店のお客様はそのころから通っていらっしゃる方も多く、実は他の日系の飲食店よりもお客様は高齢化。(笑)これをやはり若者向けに強くアピールしていきたい。また中国ではどんなに販促や広告にお金をかけて、生活圏に店舗がなければ、まったく知名度は上がりませんし、つまり売上げにもつながりません。まだまだ店舗数が少なく、人通りが多い場所に店舗がないミスタードーナツのマーケティングは、模索しなければならない。日本で成功したマーケティング手法もあまり役に立たない。どのようなやり方が最も効果があるのか自ら考えながら作り出していかないといけないのです。夏さんはやる気もあるし、ミスタードーナツへの想いも人一倍。さらに日本流のコミュニケーションに長けた彼女を採用したのは正解だったと思います。』
中村部長は、今のミスタードーナツの中国でのマーケティングにおいて、彼女がいなくては何も進まないと言う。

上海のドーナツ市場はまだまだ未成熟。ドーナツを上海の食生活の中で根付かせるために。

さてその商品となるドーナツ。ミスタードーナツが上陸してからすでに10年になるが、上海でさえ市場は成熟していないという。クリスピー・クリーム・ドーナツやダンキンドーナツ、ドーナツキングなど欧米の有名企業も出揃い、上海はドーナツ激戦区かと思いきや、どこも苦戦中らしい。

そもそもここ上海では、繁華街に出店しようとすると家賃が高すぎる。東京都の丸の内線の中で出店するよりも高い。それで商品は数元のドーナツ。これでは売上で家賃を払うのも苦しい。日系の飲食チェーン店がこの上海で苦戦するのもこういうところにその原因はありそうだ。続けて中村部長は言う。『ドーナツそのものは認知されているが、パンの一種のような扱いで、ケーキのようなお菓子とも違う。そのためパンとの価格競争に巻き込まれやすい。店舗の近くにパン屋ができると売り上げは減少する。今はドーナツ各社で競争するというよりも、各社が頑張って上海でドーナツの市場を創っていく時期ですね。』

この秋以降、上海において新店舗のスタートや、ラインナップを見直すなど、次の手を着々と準備中。『今年は万博に向けて、ポンデライオンのイラストがプリントされた上海万博モデルの水筒をつくったんです。けっこう力作なんですが、残念ながら売行はいまいちですね。ただ今後はこの経験をベースに、この秋にはさらに今まで上海ではなかったような販売促進プランを計画していて、今その準備でいそがしいんです!』と、夏さん。

大阪本社の会社らしく、夏さんと中村部長の会話は"掛け合い話"に近い。日本での留学歴もない夏さんだが、ここ半年の勤務でいつの間にか関西イントネーションになりつつある。この息の合ったチームワークから繰り広げられるアイデアによって、ミスタードーナツがどう中国で受け入れられていくのか、今後がとても楽しみだ。